【第23話】明日までの命と宣告された娘。死を見つめ、”生”に気づいた夜
子供たちの垣根のない共生生活を
肌で感じることに、
感動がいっぱいの幼児園生活。
一方で、
まだまだ娘の状態が不安定でもあった時期。
振り子が大きく振られる中で
支柱になる私は、
まだ頑丈ではなかったけれど
歓喜と失意を繰り返し
大きく揺れては戻り、また揺れて・・・。
そんな毎日を送っていました。
そして幼児園生活も
まもなく一年が経とうとしていた冬の日。
それは、
奇しくも私の30歳の誕生日でもあった日に、
その後の私のあり方を変えた
大きな大きな出来事が起こりました。
いつも園から帰宅すると
娘は疲れて、夕食までの間2時間ほど
寝てしまうのだけど
日中は私も園についていたので
その娘の仮眠時間の間に
夕食の支度をし、明日の娘の準備をし
洗濯機を回しながら掃除機をかける
そんな毎日でした。
(そう。以前にも触れているけれど
娘の障害を直視できない夫は毎日夜中しか帰ってきません。
そしてこの日は出張。
ワンオペ育児が当たり前な日々)
その日も、
同じようにバタバタとした夕刻をこなしていて
そろそろ、起こそうかと
娘に近づくと
なんか一瞬で
いつもと違うただならぬ空気を感じたのです
背筋がゾワっとしました・・・。
娘のほっぺに触れるととっても熱い。
でも変に、顔が青く呼びかけにも反応せず。
そして
私が動揺しかけたその時に
娘は突然全身の痙攣を起こし
さらに熱が上がっていくこともわかりました。
全く収まる気配のない痙攣。重責発作で
目は凝視したまま意識はなし
私を襲う、感じたことのない強烈な恐怖。
そのような状況の中
なんとか救急車を呼び
娘は病院に搬送されました。
救急外来に到着してしばらくすると
40〜50分くらい続いた痙攣は治まったのだけど
治ると同時に
娘は大量に噴水のような吐血をし
それはそれは、凄い勢いで
処置してくださっている看護師さんの白衣は
一瞬で赤黒い血で染まり
次にベッドや床も
その色に染めていきました。
呼吸も薄くなっている状態です。
痙攣で体へのストレスがかかり、
脳もむくみ、脳症を起こし・・・。
胃にも大きな穴が開いているのだとか。
私は状況を把握することができす
感情は固まったまま、
どこか、異次元の世界に
投げ込まれてしまったかのように
その場に立ちすくんでいました。
医師に呼ばれ説明を受けました。
人口呼吸をどうするか、
でもその場合のリスクが大きいからどうとか・・・。
いずれにしても非常に厳しい状態で
明日まで持たない確率の方が高いから、覚悟をして欲しい。
今のうちに
最期にお別れする親族にも連絡をしてください。
と告げられているのだけと、
私は何がどうなってるかもわからないまま、
突然で衝撃的な宣告に、
ただただ呆然とするしかありませんでした
なんだか時間の感覚も無くなって、
どれだけ時間が経ったのかも感じぬまま
酸素マスクを付けられ、
酸素テントに入れられている意識のない娘。
いつの間にかその横に座っている私。
酸素を送る乾いた音と、
モニターの電子音が微かに脳裏の奥に響くのを
やっと認識できるようなぼんやりとした意識の中
気がつくと処置室に朝陽が差し込んでいました。
時空間の感覚さえ分からなくなっていたのだけど
でもそんな状況をしばらく過ぎたら、
やっと自分の感情が動き始めました。
え??どういうこと?
死んじゃうってこと?
死ぬって何?嘘??
ふとそう思いはじめると
今度は一気に色々な感情が溢れてきます。
〈〈 私、5年間この子の何を見ていたのだろう?・・・。
普通の子との違いに目がいって、
”普通”と比較して、時にないものに絶望して、
この子の今をちゃんと受け止めていたのだろうか・・・。
明日死んじゃうなんて・・・。
どうして?
どうしてもっといっぱい抱っこしてあげなかったんだろう・・。
さきちゃんのちいちゃな手はいつもあったかだったのに。
もっと頑張って生きてるね。って言ってあげればよかった。
もっと一緒に楽しく歌ってあげればよかった。
何ができなくても、この子は生きたくて生まれてきたんだ。
もっとさきちゃんを包んで笑えばよかった。
もっともっと
かわいいね、君は素晴らしい子だ!と言ってあげればよかった
もっと、もっと・・・・。〉〉
と意識が戻らない娘の横で次々と湧いてくるのは
こんな後悔ばかり
そして
後悔をひとしきり噛み締めると
その次は
死ってこんなにもすぐ近くに
当たり前に背中合わせにあるものなんだ。
と、やけに冷静な想いが体を通り、染み渡ります。
〜生きていることの奇跡
死にゆくことの当然〜
この日
そんな想いが、
私の内側を熱く駆け巡っていくのを感じていました。
今のそのままの娘と向き合い
今、この時を感じ、感謝する生き方。
という在り方が
静かに芽生えているのを体で感じていたようです
その後
4日経って、娘は奇跡的に意識を取り戻します
娘はまだまだ伝えたいことがあって
生き返ったかのように思えました。
(続く)
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