【第10話】はじめて母の前で泣いた日
私の精神状態は崩壊しかけていたけれど
そんな中でも、
車で1時間以上かかる病院への
通院は頻繁で、
それはちゃんとこなしていました。
横浜のこども医療センターや
港区の慈恵医大病院での受診は
まぁ、果てしなく時間がかかり
朝一の予約で行っても
午前中いっぱいかかる。
時には、お昼をまたいで
会計が終わると夕方だった
なんていうのもざらで重労働なんです
そんな時
実家の母はよく病院に付き添ってくれました。
何だか、出好きの母はちょっとした
イベント気分だったのか
いつも、病院の近くでお昼に何を食べるか。
ということにワクワクしていたような。。。そんな感じ。
この頃の私は
相当きつい精神状態だったけれど
母がいつも、前向きというか
ちょっとノーテンキな感じでいることにつられて
一緒にいる間は
私も明るく気丈でいられました
このノーテンキな感じに
たまにイラッとしたりするけれど
助けられたことは確かなので
それには感謝です
が、
その間、人前で出せずに抑えられていた
最近の苦しい感情が
私の中で深く大きく膨らんでしまっていたみたい。
その頃のある日
実家に寄って母と
他愛もない話をしていた時のことです
「さきちゃんのほっぺがカサついているから
ちゃんとローション塗ってあげなさい」
なんて、母から指摘されて
そんなの、いつも通りのやりとりなのだけど
もう精神が崩壊寸前でグラグラしていたから
こんなちょっとしたことで
爆発のトリガーになってしまったのでしょうね
その一言が、
私の深いところに刺さってしまったようで
押さえていた感情が
一気に爆発したのです
「いちいち指摘しないでくれる?」
なんて
急にいいがかりに近い言葉が最初に出て
それにはちょっと母も???な感じ
そして
そうなると、もう自分を止められず
次々と声を荒げて
激しい言葉が出てきます
「この子は、私を苦しめてばかり。もう限界!」
「何で私だけこんな思いをしなきゃいけないのよ!」
「ババだって、お姉ちゃんだって障害児なんて
育てたことないじゃない!」
「いくら家族だからって
障害児の親の気持ちなんて誰も分からないじゃん!」
「こんなに病院に一生懸命行ったって
成長しないじゃん。それどころか
いつまで経っても病気ばっかり!もうイヤこんな生活」
「こんなに頑張ったってサキは何も応えてくれないんだよ!!
わかる?この気持ち?」
「私が日々どんな気持ちでこの子と過ごしてるかなんて
知らないくせに、この子のケアのことで指摘なんてしないで!!」
とまぁ
マグマが爆発したように
次から次へと一気に叫んで泣き崩れました
母の前で、はじめて泣いた日です
いつもは、ちょっと自己中で
自分の話ばかりしがちな母が
激しく暴言を吐きまくる私に
何も口を挟まず
ただ黙ってうなずいていました
この時
私は言いたいことを
全部吐き出し、泣くだけ泣きました
母が何も言わずに目の前で
どっしり構えていたことが
私にそうさせたのです
そして、
涙も枯れたころ
母は、話始めました。
「あなたの体験のはあなたのものだから
誰も代われるわけないし、
その気持ちはわかるわけないじゃない
君に与えられたことに
君が向き合って受け入れていくのを
家族は黙って見守るだけ。
泣いても、叫んでも現実は変わらないんだから
どう捉えるか、
どう受け容れていくかを考えて生きなさい。
同じ時間を泣いて過ごすか、笑って過ごすか
どっちがいいか考えて」
と。母は返しました
後にも先にも
母の前で泣いたのはこの日だけ
この母の言葉に無限の愛を感じたので
もう十分だったのです
その後、両親も姉もずっと
私が辿らなくてはならない苦しく辛い経験に
邪魔をせず、黙って見守ってくれてると感じた中で
娘と向き合ってきました
おかげで
私の人生は、強く、豊かになったのだと
思えています
幸せになるための
答えは私の内側にあるのだということを
家族は黙って見守るというカタチで、
伝えてくれているのだと、
きっと肌で感じられたのだと思います
この時の母の言葉は
吐き出して空になった
心に溶け込む気がしました。
そして
私は何だが、張り詰めていたものが
解けたように、スーっつと力が抜けて
安心感に包まれた感じになったのです。
その全部吐き出した感情を
大きく手を広げて
受け止めてもらったこの出来事は
確実に私を強くし
その後の娘への向き合い方の
方向を転換させるきっかけになりました。
この時
こうして、殻を破って
押さえていた感情を爆発させたことは
娘の受容に向かうまでの「破壊」の過程の終盤。
その後娘を受け容れていくことの
ステージが一つ変わっていき
私の戦ってきたものからの解放を
早めてくれたように思えています。
こうして振り返ると
家族を始め
たくさんの人や、
出来事に気づきをいただきながら
乗り越えて
生かされてきたんだな
と改めて思いました。
どれも大切な財産です
全ての体験と関わりに本当に感謝
(続く)